終身雇用制度では、配置転換は当然の人事でした。多くの会社は就業規則に業務命令による一方的な配転についての包括規定を設けています。しかし、正社員でも働き方が多様化し、勤務地や仕事内容、勤務時間を限定して働く「限定社員」が推奨されるようになりました。限定された職種や勤務地が消滅した場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。
1.配置転換命令の判断
[1] 東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)
配転命令権が存在しても(1)業務上の必要性がない場合、(2)不当な動機・目的がある場合、(3)労働者の職業上・生活上の不利益が大きい場合 は権利濫用として無効となるという判断
[2] 滋賀県社会福祉協議会事件(最高裁令和6年4月26日第二小法廷判決)
上告人と被上告人との間に職種限定を約する書面による合意はなかったが、上告人の保有資格や採用の経緯、勤務の状況と職種の特殊性を根拠として、黙示の職種限定合意があったとした上で、「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される」と包括規定があったとしても限定合意が優先されると判断
2.限定社員と配置転換の実務
限定社員の職種や勤務地が消滅した場合、会社が取るべき対応は次のいずれかになります。
[1] 本人の同意を得た上で配置転換を行う。この時、業務上の必要性や、配置転換に伴う不利益が発生する場合はその内容を丁寧に説明し、同意を得た場合は後々のトラブル防止のため書面を残す。
[2] [1]の同意を得るための申込みを行いつつ、受け入れられない場合は労働契約を解約する。扱いは解雇と同様になるため、可能な範囲で退職金などの上乗せや転職のための求職活動を支援する等の配慮が望ましい。
3.労働条件通知内容
令和6年4月より入社時の労働条件通知書(労働契約書)に職務内容や勤務場所については「雇入れ直後」だけでなく、将来の可能性を含めた「変更の範囲」の明示が義務化されました。これにより、「黙示の限定合意」という考え方はなくなると考えられますが、会社として明示内容をよく考える必要がありそうです。 〜人事評価制度の構築・見直し・運用の支援について
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